
朝の息苦しさは変わらない。酸素が足りず、頭や顎、目頭が痛い。
母は4時半に起きて、メイクや片付けをはじめ、6時になると築地本願寺へ出かけた。8時に石木先生が来るから、と張り切って準備していたにも関わらず、先生が病室に入ってくる直前に本を読みながら寝落ちしてしまい、先生に「お疲れですね」と声をかけられてしまう。母はいつもそんな小ネタを提供してくれる、エンターテイナーだ。
10時過ぎに信が来た。12時なっても始まらないので、ランチの焼きそばを食べていると、小島先生が点滴の針を刺しに来た。13時過ぎに薬が到着し、投与がはじまる。抗がん剤の前の抗アレルギー剤はかなり眠くなると聞いていたとおり、数十分おきに強烈な睡魔に襲われた。そのあいだの時間もただただボーっとしてしまう。確かに吐き気は少ないが、体が石のように重く、頭痛と顎痛に悩まされる。抗がん剤の投与が終了してからも、18時過ぎまで同じ状態が続いた。これを毎週1回やると思うと気が重い。
信に冷凍のスープストックを温めてもらい、少量のごはんと一緒に食べた。薬を飲んで1時間ほど寝ると、すっきり目が覚めた。ようやくいつもの状態に戻ったようだ。信に(毎晩、母にそうしてもらっていたように)熱々のホットタオルを作ってもらい、首と顔を拭くと気持ちがいい。順天堂のICUを出てから、まだ1人で寝たことがない。38歳、子供みたいな大人だ。まだ「自分が癌なんて信じられない」と思う瞬間が1日何度もやってくる。
夜、若干のムカムカを感じたので、念のため吐き気止めを飲んでベッドに入ると、1分も経たないうちに眠りについた。

Ayaka Morohoshi諸星 文香
1980年10月14日東京都生まれ。フリーランス。カナダの大学を卒業後、不動産開発会社や旅行会社の勤務を経て、2011年より世界の素敵なホテルを厳選した宿泊予約サイト「Tablet Hotels」に従事。現在は都内でパートナーと2人暮らし。
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