
薬が効いて、久しぶりに熟睡できた。心臓や肺の痛みはほとんどないが、咳き込むと血混じりの痰が何度も出て怖くなった。一体何が起きているんだろう。酸素の値も低く、息苦しいので酸素を取ることになった。
朝食の途中で、緩和ケアの石木先生が入ってくる。母は昨日さっそく先生の講演をYou Tubeで見て感激していた。いつも丁寧に接してくれるので、すっかりファンになっている。
10時半に18階の個室に移動し、昨日夜遅く出張から戻った信がやって来た。この辛かった5日間の話をして、CT検査が終わると、小島先生より病気と今後の治療方針について詳しい説明があった。やはり病名は血管肉腫であり、パクリタキセルの投与が最も有効らしい。自然治療や免疫療法は、データがないのでがんセンターでは薦められないとのこと。当然のことだ。
ただこの1週間で病状が悪化している形跡はなく、今回の高熱と痛みは肺に転移したガンの影響と考えられる。パクリタキセルは、あえば肺と心臓の両方に効く可能性があると聞き、少しだけ安堵した。月曜日に決心がついたら、火曜日からスタートすることになった。あと3日の猶予だ。
病室に戻り、遂にこの日が来たと思うとまた涙が止まらない。信が肩を抱きながら、何度も「ずっと一緒だから」と言ってくれている。もう誰も私に抗がん剤治療をやれとは言わない。心の中では思っていても、私が決めた治療方法をサポートする、としか言わない。決めるのは自分だ。
自然療法の話が出たとき、母は「中野さん、責任取れるの?」とまで言ってきた。どの治療方法を選ぶにしても、100%納得してできる治療なんてない。この現実でさえ、100%受け入れらないのだから。だったら、自分を産んでくれた人が望むことをすべきなんじゃないか。これ以上母親を悲しませたくないし、家族も友人も全力サポート体制で応援してくれている。夜、妹にその思いを話すと、大きく頷いていた。

Ayaka Morohoshi諸星 文香
1980年10月14日東京都生まれ。フリーランス。カナダの大学を卒業後、不動産開発会社や旅行会社の勤務を経て、2011年より世界の素敵なホテルを厳選した宿泊予約サイト「Tablet Hotels」に従事。現在は都内でパートナーと2人暮らし。
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