
朝早く梶本先生がきた。白衣を着ておらず、ついつい私服に注目してしまう。右足の痺れを訴えたところ、手術の際に付け根から挿入したカテーテルの影響で、半年は仕方がないと言われた。梶本先生は何を質問しても、具体的に答えてくれるので納得できる。入院翌日の緊急手術だったにもかかわらず、信頼できる医師に出会えたことは幸いだった。
退院の準備が整い、今後の予定などを確認して病院をあとにする。手術前3日間入院した日赤へ会計をしに行く前に、ウエスティンの龍天門で母とランチ。大好きな担々麺で気分転換をした。日赤で信と合流し、3人で築地の国立がん研究センターへ向かう。早速セカンドオピニオンを聞いたが、やはり診断は同じで、パクリタキセルの投与を奨められた。20%の患者に現状維持かそれ以上の効果があるという。たった20%。さらに、抗がん剤を服用しない場合、確実に病状は悪化すると宣告された。絶望感が漂う。
その後、血液検査やレントゲンを行い、薬剤師の話を聞くことになった。パクリタキセルは割と一般的な抗がん剤で、吐き気は少ないが、脱毛と手足の痺れは免れないという。周りは、髪の毛が抜けるくらいどうってことない、というが、自分にしてみれば一番の悩みどころだ。再度医師と会い、今後のスケジュールが組まれた。早ければ、2週間後にスタートする。母は1日でも早く、という勢いだったが、私の気持ちは全く追いついていない。終わった頃、日はどっぷりと暮れていた。
心身ともに疲れ果てた。14日ぶりの帰宅。家に入るなり「一旦、全部忘れたい」と信に抱きつき、2人で声を上げて泣いた。治療開始まであと2週間しかない。やりたいことがありすぎる。

Ayaka Morohoshi諸星 文香
1980年10月14日東京都生まれ。フリーランス。カナダの大学を卒業後、不動産開発会社や旅行会社の勤務を経て、2011年より世界の素敵なホテルを厳選した宿泊予約サイト「Tablet Hotels」に従事。現在は都内でパートナーと2人暮らし。
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